食育とは|現役管理栄養士が食育基本法をわかりやすく解説|実践できる具体的方法

食育 栄養情報

『食育』という言葉が行き交う昨今。

子育て中の若いお母さんたちは毎日プレッシャーの中にいるのではないでしょうか?

毎日の仕事や家事、食事の支度やお弁当作り。

それだけでも大変なのに、「こうしなくてはいけない」「こうするべきだ」という情報に、押しつぶされそうになっているのではないかと心配にもなります。

私が栄養士の養成学校に在学中にはなかった『食育』という言葉。

現役の管理栄養士で、働きながら二人の子育て経験のある身として、改めて勉強してみました。

食育基本法とは何が書いてあるのか?

実際、何をしたらいいのか?

国が進めている内容と、筆者の経験と知識とをふまえた考え、の両方をまとめました。

少し長くなりますが、最後までお付き合いください。

【この記事を書いた人】

tanu(たぬ)

現役の管理栄養士。30年以上現場の栄養士として働き、知り得た情報や知識を分かりやすく発信するサイトの管理人。

社員食堂(総食数3000食/日)、総合病院、仕出し弁当、スーパー総菜、障がい者通所施設、セントラルキッチン等経験し、2008年より特別養護老人ホームで就労中。

管理栄養士名簿登録年月;平成8年11月(管理栄養士名簿登録番号 7****号)

ネイティブ記事内

食育基本法とは

食育基本法とは、平成17年に制定された法律で、農林水産省が推進の中心を担っています。

食育基本法は、食育は『国の責務』としており、地方自治体、学校、幼稚園や保育園、食品メーカーや企業などで、食に関する情報発信をしています。

要するに、国を挙げて『食』について考え、取り組んでいきましょう、ということです。

食育基本法制定の背景

なぜこのような法律ができたのでしょうか?

それには理由があります。

食育基本法の前文にはこのようなことが書いてあります。

社会経済情勢がめまぐるしく変化し、日々忙しい生活を送る中で、人々は、毎日の「食」の大切さを忘れがちである。

食育基本法(前文)

『食』の大切さを忘れないでください、ということですね。

食育の目的

食育の目的を簡単に説明します。

①子供たちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会にはばたくことができるようにする。

②子供たちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身につける。

③すべての国民が心身の健康を確保し、生き生きと暮らすことができるようにする。

④健康寿命の延伸

大きな目的はこの4つになります。

注目して頂きたいのは③の項目です。

『すべての国民が』と食育基本法にはっきりと書いてあります。

食育は、子育て真っ只中のお母さんと子供だけの問題ではなく、『すべての国民』に向けての法律なのです。

お母さんだけでなくお父さんも。

親の手を離れた20代、30代の若者も。

働き盛りの年代も。

高齢者の皆さんも、一緒に学び、考え、実行していくものなのです。

食育の実践(国の方針)

具体的に、国はどんなことをしようとしているでしょうか。

要約しました。

供食のすすめ

家族が食卓を囲んで食事をとりながらコミュニケーションを図ることは、食育の原点でです。

一緒に食事をとることで、食事のマナーや基本的生活習慣を学びます。

学校や職場、地域のコミュニティーなど、家族以外との供食もとても重要です。

食事が美味しく感じられ、食事を楽しむことができます。

特に子供の孤食(こしょく)は、好きなものばかり食べて肥満につながります。家族のコミュニケーションが欠如することで社会性や協調性の育成がされず、心身発達にかかわるとされています。

朝食を毎日食べる、欠食をしない

朝食を毎日食べることは、基本的な生活習慣を身につける観点からとても重要です。

朝食は睡眠中に低下した体温を上げ、午前中の活動に使うエネルギーとなります。

健康上の理由から、朝食摂取困難な子供もいます。そういった子供への配慮も必要です。

栄養バランスに配慮した食生活の実践

ご飯を中心に、魚、肉、牛乳、乳製品、野菜、海藻、豆類、果物、お茶など、多様な副菜を組み合わせ、栄養バランスに優れた『日本型食生活』の推進をします。

高齢化が進行する中で、生活習慣病の予防により健康寿命の延伸は重要です。

①食塩摂取の減少

②野菜の摂取量増加

③果物を摂取する人数の増加

が求められています。

又、肥満や過度な痩身(そうしん)志向、低栄養の改善など、適正体重への意識向上と実践も重要です。

地産地消のすすめ

『地産地消』は流通距離の縮減につながり、二酸化炭素の排出量が減少、環境負担の軽減に寄与します。

環境負担の軽減は、SDGsの観点からも重要です。

給食で地場産物を使うことで産地や生産者を意識して購入できるようになったり、農林漁業体験を増やすことで、食への興味を向上させます。

食への興味を向上させることにより食べ残しを減らし、フードロス問題、食の貧困問題について主体的に考え、取り組めるようになります。

食の安全の確保

食品の安全性が確保され、安心して消費できることが大前提であるため、食品の安全性をはじめとする食に関する情報提供を積極的に行われています。

その情報を正しく理解し、環境に配慮した食品を選べるようになることが重要です。

又、食料自給率を向上させ、食生活は自然の恩恵の上にあることや、食にかかわる全ての人に感謝する念をやしないます。

口腔機能の発達と維持

健康寿命の延伸には、健全な食生活が大切であり、よく噛んでおいしく食べるためには口腔機能が十分に発達し維持されることが大切です。

『8020(ハチマルニイマル)運動』…80歳で自分の歯を20本以上に保つ

『歯ミング30(ハミングサンマル)』…一口で30回噛む

等の推進を通じて、幼児から高齢者まで、お口の健康は重要です。

伝統的な料理や作法の伝承

四季や地域の特性を活かした食文化(郷土料理)や、ユネスコの無形文化遺産に登録された『和食:日本人の伝統的な食文化』を継承していくことが大切です。

食育の実践(筆者の考え)

基本的には国の考え方に賛同します。

現在、介護施設で働いている身として、『健康寿命の延伸』は大変重要な課題だと痛感しています。

生活習慣病にならないために、基本的な生活習慣を身につけ、いつまでも明るく元気に生活できる力を養う必要があると感じています。

又、食の安全やフードロス問題等に関しても、理解と行動を推し進めたほうがいいと思っています。

食べたもので身体はできています。

安全で新鮮な食べ物、バランスのとれた食生活は『自分へのギフト』

基本的な生活習慣を子供に習得させることは『親から子供へのギフト』

環境問題や食の貧困に取り組むことは『未来への投資』

そんな風に筆者は考えています。

供食のすすめ(筆者の考え)

「穏やかな気持ちで家族と食卓を囲むこと」は理想です。

しかし筆者自身が出来たか、というと、合格点を満たしているかわかりません。

筆者が子供のころは、厳格な父との食事があまり好きではありませんでした。

時々𠮟られては食欲減退になったことを、今でも覚えています。

筆者が親になってからは、子供を保育園に通わせながら働いていたため、あわただしい毎日を過ごしていました。

自分が思い描く子育てができずに泣いたこともあります。

そんな時、保育士さんに言われた言葉があります。

「子供との関係って、時間の長さじゃないのよ。内容と密度なの。子供は親の姿をちゃんと見てる。子供に恥じないように、あなたがしっかり生きるのよ」

この言葉を心にとめて、母親として筆者なりにしっかり生きてきたつもりです。

このような経験と、管理栄養士としての立場も踏まえ、筆者は以下のように考えます。

①『一緒に食事をすること』だけを目標とせず、食事以外でもコミュニケーションをとるようにする。

②規則正しく生活(早寝早起き朝ごはん)し、基本的な食事のマナー(箸の持ち方、お茶碗を持つ、音を立てない等)を教え、自ら実践する。

③食事は単なるエネルギー補給ではなく、おいしく、楽しく食べるようにする。

④食事の時間は、怖い顔をしたり怒ったりしない。

⑤年齢に応じて、友人や地域のコミュニティーなどの会食への参加をする。

など、食を楽しむ、食を通したコミュニケーションを実践しましょう。

朝食を毎日食べる、欠食をしない(筆者の考え)

朝食を毎日食べることは重要です。

仕事で献立作成、栄養算出・管理をしますが、必要な栄養を毎日摂ることはとても大変です。

3食しっかり食べても、必要量に満たない時もありますから、朝食を抜くと、更に必要な栄養量に達しません。

朝食を食べない習慣の人は、まずは牛乳1杯でもいいので召し上がっていただきたいです。

食べてるけど、ご飯のおかずは何を食べたらいいか分からない方は『温かいもの』をおすすめします。

先に示しましたが、朝は体温が下がっています。

温かいものを体に入れることで、体温は効率よく上昇します。

体温を上げることで、午前中からしっかり活動ができることは言うまでもありません。

具だくさんの味噌汁に卵を落として、ポーチドエッグ入り味噌汁のようにしたり、大豆やウインナーなどが入った、具だくさんミネストローネのように、一皿で野菜とたんぱく質がとれて温かいおかずは、栄養面からみても朝食にぴったりだと思います。

本来、味噌汁はその日のうちに消費すること、沸騰させず味噌の香りや栄養を食すことが基本です。

汁物を作り置きする時は、衛生面に十分気を付け、必ず冷蔵庫で保管、再加熱して食べましょう。

『朝起きたら食べる』ことを意識・実践していると、毎朝食べることがだんだん当たり前になってきます。

果物を食べる、ヨーグルトを食べる、納豆ご飯を食べる、雑炊を食べる、なんでも良いです。

少しずつ、量や質も向上していくと更に良いでしょう。

毎日朝食を食べる子供は、学力調査の正答率が高い傾向がある、体力テストの結果もよい、と文部科学省の調査で公表されています。

素早く分解され脳を動かずエネルギーとなる、ご飯やパンを中心とした朝食を毎日食べましょう。

栄養バランスに配慮した食生活の実践(筆者の考え)

栄養バランスに配慮した食生活の実践は重要です。

健康寿命の延伸に直結するといっても過言ではありません。

栄養バランスについて学ぶことは、教育プログラムにも組み込まれており、小学校から高等学校まで繰り返し行われ、習得できるようになっています。

実際学校で、どんな風に習ったか我が子に聞いてみたところ、学校給食の献立表を見ながら、それぞれの食品群をまんべんなく使用していることを確認しあう授業があったそうです。

食育基本法では『学校給食を充実させる』『給食は生きた教材』という表現をしています。

学校給食の献立を参考に、毎日の食事に生かす方法は簡単かつ現実的です。

学校給食の献立が手元にない方は、色々な食品を食事に取り入れましょう。

外食が続くと栄養の偏りが生じます。お肉をたくさん食べてしまったら次の日は野菜中心の食事にする、という風に、1週間くらいを目安に栄養のバランスを整えましょう。

地産地消のすすめ(筆者の考え)

地産地消、生産者の顔が見える食品の購入を日常に取り入れることで、食べ物への興味が増します。

農業体験をすることで、更に食べ物への興味が増すと考えます。

いちご狩り、みかん狩り、りんご狩り、ぶどう狩り、芋ほりなどのアクティビティーも農業体験の一部です。

プランターでミニトマトの苗を育てるのも、農業体験に入ります。

スーパーで購入したトウモロコシの皮をむくのも、農業体験と考えても良いのではないでしょうか。

作物が元々どのような形をしていて、どんな工程を経て口に入るのか。

実際に触れること、体験することで食への興味が増します。

食への興味が増すことで、食べ物を大切にしたり、好き嫌いがなくなったりします。

食の安全の確保(筆者の考え)

日本で現在流通している食品は、食品衛生法により安全は確保されています。(参考資料はこちら

輸入食品も同様に監視されており、安心して食べられます。

消費者が常に厳しい目で監視し続けることで、食の安全の確保が継続できるます。

又、食料自給率が日本は非常に低く、カロリーベースだと、自給率は37%しかありません。

輸入が止まってしまうと、またたく間に食糧難になってしまいます。

食の安全を守り続けるために、国内の食料生産量を増やし、安心安全な食生活を続けられるようにしなければならないと考えています。

口腔機能の発達と維持(筆者の考え)

口は身体の入り口です。口の健康無くして、身体の健康はありません。

口の中の衛生や、噛む力の維持・向上に努め、美味しく食べて、健康を維持しましょう。

伝統的な料理や作法の伝承(筆者の考え)

『食の欧米』という言葉を一時期よく耳にしたと思います。

食の欧米化によって大腸がんの死亡率が高くなったことは有名で、ご存じの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

日本人の平均寿命が世界一なのも、米と魚を中心に使う、伝統的な日本料理(和食)による良い影響があることは間違いありません。

日本料理(和食)は難しい、めんどくさい、と思わずに、サケの塩焼き、刺身、サバの味噌煮、ほうれん草のお浸し、きゅうりの酢の物など、なじみの料理もあります。

そういった料理から少しずつレパートリーを増やしていきましょう。

子供の好き嫌いについて

家族の好き嫌いに悩む方は多いと思います。

特に、我が子の好き嫌いに関しては、どの親も心配されているのではないでしょうか。

好きな物ばかり食べていると、栄養の偏りが大きくなり肥満や糖尿病の発症リスクが高く、子供でも注意が必要です。

だからといって無理に食べさせようとするともっと食べなくなってしまいます。

まず知っておいていただきたいのは、お腹の中の赤ちゃんや乳幼児は、お母さんが食べた物を、お母さんの血液を経由して食べています。

母乳も、もとはお母さんが食べたものでできています。

お母さんが食べたことのない食べ物は、赤ちゃんも経験がないのです。

色々な食べ物を子供に食べさせる行為は、子供の健康を考え、栄養のバランスを良くしようと考えての行為ですが、赤ちゃんは初めての味にびっくりしてしまいます。

赤ちゃんがお腹にいる時や授乳中から、お子さんの好き嫌いについては少しずつ考えていきましょう。

幼児以降のお子さんの好き嫌いですが、最初は少量にし、食べられそうなら少しずつ量を増やしていきましょう。

小さいお子さんは『だしの味』が大好きです。

苦手な食品は、だしなどで煮たものを、ほんの少しだけ食べさせてみましょう。

食べられた時は、大げさに褒めてあげてください。

そして一番大事なのは、一緒に食べる親や周りの大人たちが、「美味しい、美味しい」と言いながら食べることです。

子供の心理は、『大好きなお父さん、お母さんが「美味しい」と言っている食べ物を食べてみたら、ちょっとおいしくなかったけど褒められた!うれしい!気分がいい!』です。

もし食べられなくても叱らずに「今度はおいしく作るね」と優しく言ってあげましょう。

年齢を重ねるごとに、食べられるものは増えてきますので、焦りは禁物です。

どうしても食べない時は、『農業体験』です。

自分で収穫したものや、自分で手間暇かけた物は『おいしく感じる』ものです。

バーベキューなど、いつもと違うシチュエーションで食べるもの効果的です。

そのお子さん、ご家庭によってやり方は様々です。

食は楽しむことも大切、ということを忘れないでください。

まとめ

『食育』についてもう一度簡単におさらいしましょう。

目的は4つ。

①子供たちが健全な心と身体を培い、未来や国際社会にはばたくことができるようにする。

②子供たちが豊かな人間性をはぐくみ、生きる力を身につける。

③すべての国民が心身の健康を確保し、生き生きと暮らすことができるようにする。

④健康寿命の延伸

です。

内容は、

①基本的な生活習慣を身につけ、生活習慣病にならないようにする。

②食への感謝の気持ちを持つことで、食にまつわる問題に自ら行動できる。

③日本食という素晴らしい文化を伝承しする。

④食や栄養への正しい理解、判断ができるようになり、食の安全が継続的に確保できる。

⑤食を楽しむ。

です。

食べたもので身体はできています。

食事を大切にすることは、ご自分の身体、家族の身体を大切にすることと同じです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が皆さまのお役に少しでも立てれば幸いです。

【追記】

我が子のコメントです。

皆さまの何かのヒントになればと思い、最後に記しました。

・食事のマナーはだいたい家で教わったと思う。友達と一緒に食事をすると、自分はだいたいできてると感じる。

・『早寝早起き朝ごはん』は自然と身についた。

・中学生になると、部活や塾で家族と一緒に食事をとれなくなるけど、コミュニケーションが取れないと思ったことはない。

・一緒に外食するのは楽しみだった。

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